時は’87年。A.C.ジョビンの60歳を記念したアルバムを作ろうとブラジルの財団がジョビンに持ちかけ、関係者に限定数配付された幻のアルバム。
ジョビン亡き後’95年に国内盤でもひとときリリースされたが、永きに渡って廃盤となっていた。息子のパウロとレーベル”ビスコイト・フィーノ”が共同出資したこの”ジョビン・ビスコイト・フィーノ”から第二弾リリースに選ばれたのがこの”イネヂート”(=未発表)。
同年発表の”パッサリウム”と同様のメンバーでホーム・レコーディングする事を選んだジョビン。バンダ・ノヴァの面々・・・彼の妻や子(アナvo、パウロg、エリザベチvo)、ジャキス・モレレンバウムcello、ダニロ・カイミflute,vo、シモーヌvo、セバスチァン・ネトb、パウロ・ブラガds,,,終始軽快さとリラックスしたムードでレコーディングされたお家芸、24曲のジョビンによるボサノヴァ・クラシコは、ソフィスケイトされたアレンジと清涼で滑らかなコーラス・ワークで究極の完成度に達した。当初2枚組LPのヴォリュームでリリースされたという70分弱、一点の曇りもないほどに冴え渡り、フォロワーの追随を諦めさせるには充分の未来永劫まで語り継がれるだろう盤。
インストの名曲「ウエイヴ」、初めて自身の喉で披露する「フェリシダーヂ」、ジョビンとディープ・トーンの持ち主=ダニロ・カイミのデュオで「ジェット機のサンバ」「イパネマの娘」、シモーヌやパウラ・モレレンバウム、アナ、マウシャ・アヂネー、エリザベチと幾重にも折り重なった女性陣によるコーラス・ワークが流麗な「サービア」「ワン・ノート・サンバ」「3月の水」。非常に珍しいジョビン=マリーノ・ピント作「スセデウ・アッシム」のレコーディング。アナ、ジョビン夫妻の声とピアノにジャキスのチェロという最小限の編成で挑んだ「エウ・ナォン・エーズィット・セン・ヴォーセ」、加えて美しいオーケストレーションを施したトラック群、曲に新鮮な息吹きを与えているジョビンのピアノ・ノート。m7,8には同名曲ながらジョビンとヴィラ・ロボスのコンセプトの違いを対比するべく並べておさめられた「モヂーニャ」など高度な遊び心も盛り込んである。
プロデューサーのジャイロ・セヴェリーノは回想する。「87年の8月30日、夜の11時にレコーディングを始めた。その日は表通りは静かで音を出す者も居なかった。おかげさまで明け方2時には終わったんだ。」トム・ジョビン自身も語っている。「我が家では200m離れたカエルの鳴き声も聞き逃さなかったね。」マエストロの耳は全てをキャッチしてしまうのである。
参考原文:ジュリオ・モウラ
1. Wave
2. Chega de Saudade
3. Sabia
4. Samba do Aviao
5. Garota de Ipanema
6. Retrato em Branco e Preto
7. Modinha (Seresta no 5)
8. Modinha
9. Canta, Canta Mais
10. Eu Nao Existo Sem Voce
11. Por Causa de Voce
12. Sucedeu Assim
13. Imagina
14. Eu Sei Que Vou Te Amar
15. Cancao do Amor Demais
16. Falando de Amor
17. Inutiil Paisagem
18. Derradeira Primavera
19. Cancao em Modo Menor
20. Estrada do Sol
21. Aguas de Marco
22. Samba de Uma Nota So
23. Desafinado
24. A Felicidade