プログレッシヴなコンテンポラリー・フォルクローレ。高い演奏能力と独創的且つ先鋭の感覚でアルゼンチンはブエノス・アイレスからシーンを席巻してきた奇才音楽集団の新作が満を持して限定正規国内盤CD化。シアトリカルでダイナミズムに富んだアンサンブルは南米中に飛び火し、隣国ブラジルはミナス・ジェライス辺りの新たな世代の紡ぎ出す音楽とも比肩する存在となっています。TV-CMでもおなじみ、アルゼンチンの女性シンガー、メリーナ・モギレフスキーがゲスト参加。現地ではシンプル包装CD-Rのみの発売ですので、フィジカルなプレス盤としては世界初リリースとなります。
ここ日本でも著名なジャズ・ミュージシャンやジャーナリストに高評されたソロ作「Pianos」を発表したナウエル・カルフィ(p)、生ギターの弾き語りで同世代S.S.W.の楽曲を解釈するアルバム「Estábamos tan tristes que no podiamos cantar」のなか、前代未聞の"Lucy in the sky with diamond"を披露したニコ・ラリス(vo,g)、同じくA.ロックの系譜を汲んだソロ作「Dia a dia」を発表しているラウタロ・マトゥーテ(g, vo)、大御所シンガー - リリアナ・エレーロの歌伴も務めるアグスティン・ルメルマン(drs)、インプロ成分多めのイマジネイティヴなサウンド・スケープ - エル・スエニョ・デ・ロス・エレファンテにも参加するマヌエル・ロドリゲス・リバ(cl)、スズキ・メソッドの奨学生資格を獲得したこともあるホアキン・チバン(vln)、幾つかの室内楽プロジェクトの他、舞台音楽や映画音楽も手がけるフリアン・ガライ(b)など、’80年代末期生まれのツワモノが揃いもそろった、アンサンブル・チャンチョ・ア・クエルダ。 クワイエットな成分からシアトリカルな展開までを含み、アッと驚かせた「Contrastes (コントラスト)」[2010]、エグベルト・ジスモンチやジョー・パスの楽曲を再構築してみせ、栄誉あるガルデル賞にも輝いたカフェ・ビニーロでのライヴ実況盤「Subversiones(サブ・ヴァージョン)」[2012]、続いて分解・再構築をテーマに掲げた「Deconstruccion(再構築)」[2014]。それぞれのプレイヤーが持つ妙技がカオティックに絡み合い、いつしかダイナミズムや流麗なるハーモニーを生み出す、という独特のパフォーマンスはウルグアイの著名なフェスティヴァル - ジャズ・ア・カジェや、オスカー・ニーマイヤー設計のサンパウロ・アウディトリオ・イピラプエラでのフェスへと招聘。世界的に注目が集まるなか発表されたのが本作「Posdata(追伸)」[2018]。
シアトリカルなインスタレーションを思わせるピアノ奏者ナウエル・カルフィ作の佳曲m-1”Polvaderal"にはレシーフェのフルート奏者エンリケ・アルビノが特別参加。南米でも翻訳出版されている川端康成「山の音」にインスパイアされたというm-2”Montaña(山なみ)“は作者のマヌエス・ロドリゲス・リバによるハーモニカの寂寥感が漂うインストゥルメンタル、クラリネットをはじめマルチ木管奏者のマヌエルが子供のころ凄した街の風景をシネマティックな室内楽におとしこんだm-4”Junin(フニン)”。メリーナ・モギレフスキーの鳥のさえずりにも似た唄声とエクスペリメントな音が絶妙にマッチするm-5”Luz(光)“は作詞がブラジルのアルナルド・アントゥネス。ニコ・ラリスが自らの中に見出した宇宙観を綴ったm-6”Mi universo(ぼくの宇宙)”や、巨大で無限な自然を暗喩したm-9”Los gigantes(巨大なものたち)”、アグスティン・ルメルマンとの共作m-3”El pacha(浮浪者)”など唄モノの歌詞そしてフォルクローレのレジェンド、アタウアルパ・ユパンキ"Guitarra dimelo tú(ギターよ、教えておくれ)”の斬新な解釈、どこか共産圏を思わせるオリエンタルな室内楽アンサンブルの"Prisma(プリズム)“、ロシアの哲学者ボリス・グロイスの著作から感銘を受けたという"Posdata(追伸)”にはアジテーション的な朗読も。
2018.11 伊藤亮介[大洋レコード]