レシーフェからまたもや注目の存在が登場!ホーダ・ヂ・サンバ(小編成サンバ)のルーツ・リズムやボサ・ノヴァにラグタイムやジャズ調ピアノ、そしてペルナンブーコ節とも呼べる楽観的なヴォーカルと際立ったポップ・フレイヴァーが調和、前人未到のフットワークも軽い”バックパッカー系未来派ブラジル音楽”の登場!(ムンド・リヴリS.A.、エディー、パラフーザのメンバー等に女性vo.エレオノラ・ファルコーニが友情参加!)
チベーリオ・アズール(vo, g)、カストール・ルイス(p, vo)、ドン・アンジェロ(g)、ブルーノ・クピン(パンデイロなどの per)のアクースティック楽器を主に操る四人組。16世紀の名著、ミゲル・デ・セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」に倣って、当初はMula Manca & a Triste Figura (不自由なラバと哀しみの像)と名乗っていました。ドン・キホーテさながらに書物を読みあさり、映画を始めとする情操的な影響を大量に摂取して、押しも押されぬ詩的な表現者としての名実を身につけてきたようです。5年ものツアー・ロードに明け暮れたバンドは”孤独のサーカス”なるタイトルのアルバムを2004年にリリース。今2ndアルバム”愛とパステル”からMula Manca & a Fabulosa Figura (不自由なラバと”伝説の”像)に改名したこのバンド、ダリの名画を模したユニークなジャケットに装幀されて遂に傑作の名に相応しい輝きを放つ作品が完成しました。シャンソンの伴奏かと見紛うようなピアノのトーンが持つ深みとパンデイロ&カヴァキーニョのサンバ・リズムが絶妙なバランスで出逢うm-1で、女性を口説きつつ言い放つ「我々の洒落た奇妙な音楽、愛」との宣言がこのバンドの全容を言い当てているようにも思えます。一転、捩じれたボサ・ノヴァを演じるm-2「ブロンド・ガール」を挟み、ミュートされたギターとハンド・クラップ+パンデイロが軽妙に弾むポップ・チューンm-3「別のカップル」ではロス・エルマーノスを彷彿とさせる逸品のサウンドに載せて、ダンスの相手に誘われた葛藤を唄います。ここまで拝聴していただいた皆さんの中には”ペルナンブーコのバンドなのに北東部らしさがないのでは?”と疑問を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。ご安心下さい。本アルバムで全てのベース担当するのはムンド・リヴリS/Aのアレイアです。エディーやパラフーザといった今をときめく同郷のバンド仲間たちが挙って友情参加しているのです。次のm-4ではマンギ・ビートらしさが炸裂して、トレモロの効いたギターと共に”金稼ぎ”の苦悩を哀しげな旋律に吐き出します。ピアノ・ジャズ弾き語りのm-6?ブルーズ・ロックのm-7を経て、ラグタイム・ミュージックのリズムが場面転換で顔を覗かせる「バラ色の描写」m-8ではアコーディオンが陽気さを演出します。ここでソロ・アルバムをもリリースしている女性シンガーのエレオノラ・ファルコーニをメインに据えての華やかでメロウなボサ・ノヴァ?ソフト・サンバ「ここに横たえて」m-9を収録。北東部魂の真髄を魅せてくれるm-10「アニマル」では伝統リズム”コーコ”と多重コーラスが聴けます。そして本アルバムのハイライトm-11「大地、水と塩」では素晴らしいの一言に尽きるセンチメンタルなメロディがピアノの倍音とパンデイロの余韻に合わせてどこまでも拡がりゆき、自然や海の大きさを讃えると共に自らの存在の小ささを認識させられる、そのような内容の唄になっています。同郷の若手バンド-モンボジョの妙技とも云えるソング・ライティングと肩を並べているでしょう。ここでフルートなどの管楽器も登場してのサンバ・カンシオン「ジャケット」m-12があって、初期ビートルズの持つユーモアを織り込んだようなm-13「ベランダ」、フォルク・タッチに女スパイの物語を創りあげた「地についた足」m-14、サイケデリックな言葉遊びが横行する「逆行」m-15と綺麗にフィナーレを締めくくることを良しとしないこのバンド、”反骨心”の固まり然とした意志を感じます。ブラジルの誇るべきレジェンド?サンバのリズムや楽器、ボサ・ノヴァ、北東部リズムを自身の表現中に組み込んだうえで、ジャズにラグタイム・ミュージック、ロックと様々な要素を自在にマッチングさせて行く手腕。そしてそれらを”テクノロジーに頼ることなく”色鮮やかに発信してゆくポップ感覚。怖るべき才能が結実した盤と云えましょう。この盤に耳を澄ませば在りそうで無かった、未開の風景が眼前に広がること必至です。