*アフロ・サンバやレゲエ、ヒップホップにジャズ、様々な音楽要素の詰まった稀代の傑作、2011年のインポートCD入荷時のレビューに加筆訂正し、掲載します。
イアラ・ヘンノ、アンドレイア・ヂアス、グスタヴォ・ルイス(トゥリッパの弟)、マリア・ポルトガル(現クアルタベー)... 知るひとゾのみ知るエクスペリメンタル・ルーツ・ミュージックのバンド、ドナジッカを構成していた面々が、現在のサンパウロ・アンダーグラウンドを駆け巡っています。このアネリスのデビュー盤でも、ドナジッカ 〜 イアラ 〜 アンドレイアと続くダウンビートに彩られたアーバン・エクスペリメンタルなムードは一貫してあって、そこにショーロ的な音使いを用いつつもストレンジな風合いのサンバ、ジャジーな英語曲やダブにオブスキュアなヒップホップ、と彩りを最大限に添えた凄みのあるアルバム。m-1"Mulher Segundo Meu Pai"(女性、私の2番目の父)では父イタマール・アスンサォンの未発表音源をサンプリング、ボディ・パーカッションとベース・ラインに妖艶さが際立つアネリスの唄声が陰影の美しい楽曲を構築してゆきます。この曲では姉のセレナ(2016年・没)も参加、まさにアスンサォン・ファミリーで新しい時代の扉を開けた、そんなアルバムの冒頭。ダブの手法を用いた楽曲を挟み、カヴァコと木管の多重録音に少しハスキーな声でサンバをはじめるm-4"Passando a vez"(過ぎ去った時間)では、トン・ゼーの「Estudando - 」シリーズも真っ青の展開をみせ、マックスB.O.のラップ、そしてキューバン・ソンを彷彿とさせるフレーズへとおとしこむという大ネタ。グスタヴォ・ルイスの生ギターと小鳥のさえずりをバックにしたアコースティックな"Deita"があり、次曲では女性VoユニットSisとしても活動する盟友のセウ、タルマ・ヂ・フレイタスが参加したダウン・チルな英語詩佳曲"Secret"があり、つづく”Neverland"でもセウとそのプロデューサー、ベト・ヴィラーリスがギターで、クルミンがドラムで、ダブ・ディレイを本作のコ・プロデューサー、グスタヴォ・レンザが施しています。フェラ・クティをサンプリングしたm-8"Sonhando"では、サンパウロらしく反骨心に富んだ斬新なアフロ・ビートの解釈が行なわれています。こちらにはこの曲の作者であるカリーナ・ブールがゲスト参加。70年代のヴィンテージな香りのするバラッドm-10"Quaresmeira"(四旬節)ではベテラン・シンガーのアルジーラ・Eがゲストに。バンドリンでデキシーランド・ジャズのムードを醸し出すm-11"One Day"では、夜の空気に覆われていた音楽が一転、アルバムに陽の光を与えています。再度Sisの盟友セウやタルマがコーラスで参加した"Alta Madrugada"では、このアルバムを形作る重要なミュージシャンたちがほぼ出揃います。アルバムの要所で音色構成に深みを加えているオルガンやローズでダニエル・ガンジャマン、刹那の感情を露にするトロンボーンでボカート、エキセントリックなギターでグスタヴォ・ルイス、ベースにマウ。再度アンビエンシーな短編”Deita 2"を挟んで、アルバムはフィナーレへと向かいます。そこで登場するのはアネリスの娘、小さなフビの唄う声が巻末を飾ります。
今回のアナログ・リイシューでは初回CD版に未収録の"Night Falling"を収録、全19曲となります。