ブエノス・アイレス発の超本格派”タンゴ・ジョーベン”(=タンゴ・エレクトロ)ニュー・カマー「セイス・ルセス」。繊細さとポピュラリティーを兼ね備え、タンゴ通をも唸らせるティピカルなサンプリング・ソースやプレイヤー陣に幾度となく驚く。
フランスのゴタン・プロジェクトに始まり、アルゼンチンではグスタボ・サンタオラージャprod.のバホフォンド・タンゴクラブで一気に過熱したタンゴ・ジョーベン/エレクトロ・タンゴ/フューチャー・タンゴ。その後もナルコ・タンゴやLSDAなど多くのプロダクトが世に噴出したが、その中で最新のリリースとなるセイス・ルセス/タンゴ・ビサーロ、ビザール・タンゴは一味違う上質のプロジェクトだ。
まず主軸となるのがセイス・ルセスa.k.a.アレハンドロ・フェルナンデス・レッセが構築したエレクトロ・ビートやカットアップしたサンプリング・ソース。このサンプリング・ソースがまたオツで、フランシスコ・カナロ ”テ・キエーロ”、エンリケ・サントス・ディセポーロ ”ファンガル”など'40年代の古いタンゴをカット・アップ、心地よいブレイク・ビーツと見事に融合させている。そして着目すべきはラ・ティピカ・セイス・ルセスと名付けられた若手からベテランまでのミュージシャン達、フアンホ・エルミダ(p)、ガブリエル・メルリーノ(bandneon)、ベルナルド・バラフ (s)、グスタボ・カッカーボ (tr)、アルフレッド・レムス(voice)、フェルナンド (acc) &ニコラス・ファルコフ (g)などなどタンゴやジャズのシーンから大勢が生演奏で参加している点。これらのサンプリングやループ、生演奏を繊細かつ大胆な感性で知性的にコラージュしてゆき構築された16曲は恐ろしく高い完成度を誇る。本人は全く意識していないだろうし聴いてもいないだろうが、かつて日本のサンプリング感覚がヨーロッパで大手を持って迎え入れられたその意識とも通づる、ティピカルなものに新しく”生きる意義”を与えてくれる敬愛に満ちた蘇生術。全編に染み渡る心地よいポップ・フレイヴァーが素敵だ。アルゼンチン音楽が少しでも気に掛かり始めたら絶対必携!の一枚。