ルイス・エサ(タンバ・トリオ)などに師事した後、'80年代後半にクラウヂオ・ダウエルスベルグとのデュオ・フェニックスで活躍、ブラジルの主要都市やヨーロッパのジャズ・フェスを席巻します。トニーニョ・オルタやエヂ・モッタ、様々なアーチストのショーや録音に参加、ソロとしてはECMでエギベルト・ジスモンチprod のもと息子の名を冠した「アントニオ」というアルバムを'99年に発表。ヨーロッパで、世界中で、その名を知られる事となります。このピアノ奏者/コンポーザー/シンガー/アレンジャーのデリア・フィッシャーはいつかマエストロ - エギベルト・ジスモンチの膨大な作品とその仕事に恩返しをしたい、と夢を抱いていました。その夢が文化機関SESCリオ の助成によって叶うこととなったのが本作品です。これまでもシンフォニック、交響楽とブラジル音楽の融合というところで多大なる功績を残してきたジスモンチを、愛弟子とも云える女流ピアニストがリオのミュージシャン、ペドロ・ゲヂス(g,b,key) らと共に、女性の視点が活きた円やかさの感じられるピアノ、しなやかでナチュラルな唄声で解釈をしたのが本作。'69年に作られた"O Sonho" にはサシャ・アンバッキがノード・リードの現代的なトーンを加え、インストゥルメンタル曲の"Palhaco" では他曲でバンドリンを演奏するペドロ・ミビエッリがヴァイオリンを、サンバ・パーカッションからジャズ的なドラムまでこなすナイフィ・シモンイスがフリューゲルホルンを演奏し、チェンバーの流麗な響きを作り上げています。ピアノ弾き語りでやさしく丁寧に唄い上げる”Auto Retrato"、ジスモンチとネルソン・カヴァキーニョが作った"Saudacao"を下敷きにパウロ・セーザル・ピニェイロと共作した軽快なソフト・サンバのタイトル曲 "Saudacoes" ではジスモンチ本人が10弦ギターの楽しげな演奏にて参加しています。おもちゃのアコーディオンにフルートなどを多重録音した"Passarinho" に、パウリーニョ・モスカがゲスト参加した"Um outro olhar"はアーバン・ソウルの風情、北東部リズムをモチーフにした"Maracatu" まで多彩な表情、圧倒的にコンセプチュアルな演奏と唄が詰まっています。70年代~80年代のレパートリーを中心にしたため、盤面にヴィニール・レコードを模した加工がされています。これが本作品が工場製CD-Rであることの所以でしょうか。