タンゴのコンボを基盤にコンテンポラリーなジャズや現代音楽をも含む新しいアンサンブルを展開するということでは、ディエゴ・スキッシ(p) がお好きなひとにお薦めです。ブエノス・アイレス出身のギター奏者マルティン・ネグロがコンポジション、アレンジで魅せるスペイン録音のアルバム。
ギターもコンテンポラリーなフォルクローレの曲ではナイロン弦のものを、インプロヴァイズしてゆく楽曲ではeギターを、と使い分けます。自作のタンゴ・ミロンガでは流麗な旋律をヴァイオリンとクラリネットのチェンバーな響きと掛け合いのように繰り広げ、劇的なパッセージによるピアソラを彷彿とさせるタンゴとクラシックの融合もみられます。ソロ・パートではヴォーカリーズと共にジャズ・ギターの調べが紡ぎだされ、クラシック作曲家のバルトーク作"6つのバガテル”ではエクスペリメントなタッチからメタリックな狂気の渦へと展開してゆくという具合になかなかカテゴライズしにくい作品でもあります。一変してアルゼンチンのクラシック作曲家アルベルト・ヒナステラの輪舞曲"優雅な乙女の踊り”ではファゴットも含む室内管弦楽の美しく情感たっぷりの編曲を施しています。バンドネオンがフィーチャーされたシネマティックな"Don't know"や旧東欧圏のロマ音楽を思わせるクラリネットやファゴットの旋律に、擦弦のノイズでアヴァンな印象をもたらす"Tres variaciones sobre un tema sin titulo"、様々な要素からロジカルに構築された音宇宙、その意図することが再生を重ねる毎に伝わってきます。