はじめて聴いた時には、その昔に良盤漁りをしていた60年代後期~70年代中期のU.S.シンガー・ソングライターものと同じ匂い - 土臭くもはっきりとアーチストの崇高な美意識が感じられる作品だなと感じました。南米ブラジルはミナス・ジェライス州ウベラバでウルグアイ人の父親から生を受け、最後はバイーア州サルヴァドールで'12年に生涯を閉じた、シンガー・ソングライター - デルシオ・マルケス。ブラジル人としては初めてアタウアルパ・ユパンキの詩作に楽曲を付けたり、特定のブラジル・ルーツ音楽だけに囚われることなく、ラテン・アメリカ圏、そしてブラジル中を研究した結果に遺されたアーシーで人情に厚いハーモニーと吟遊詩人としてのことば。サンパウロのオーガニック系女性S.S.W./マルチ奏者 カチヤ・テイシェイラが旗ふりとなって行なわれたデルシオ・ マルケス・トリビュート企画の集大成となるCD作品。
'13年には5つの州の7都市で、'14年には23都市に拡大して70ものショーが行なわれたブラジルの吟遊詩人デルシオ・マルケス・トリビュート "ダンド"。ここに参加するのはその広がりを物語るように、ムジカ・カイピーラを中心にシランダ、バイーアォンやガフィエイラ・サンバに至るまでブラジル・フォーク大全。冒頭のデルシオ本人によるメドレー形式にはじまり、サンバにこだわったソロ作が秘かな人気を誇るアナ・パウラ・ダ・シルヴァのm-5"Canto Negro" や、故デルシオ・マルケスがコーラスで参加するフェルナンド・ギマランイスのトラックm-8"Passaro Preto"、朗らかなバイーアォンで花を手向けるヴァルギラ・マリアのm-9"Menino Canario"、ミナス・ジェライスの民謡で子供向け企画によく採録されているm-10"Pontos de Capitao" 、隣国のチャカレーラに通じるリズムにハベッカとコーラスを携えた澄んだ叙情のハーモニー m-14"Vem Comigo" は企画の主導者カチヤ・テイシェイラによるもの。自然と調和のとれたプリミティヴなブラジルのフォーク・ミュージックは、豊かな倍音で音楽本来のあるべき姿を思い起こさせてくれます。