アルゼンチンのコンテンポラリー音楽を代表するギタリストのキケ・シネシ、ついシネシさんと敬称を付けたくなるのです。紡ぎ出す一音目からして既にスウィートな音色からは実直な人間性も醸し出し、バルテル・カストロ(bdn) との掛け合いもスリリングに、目下最新録音。再来日公演でも演奏された曲が本盤に収録。
タンゴを基盤にジャズやインプロヴィゼーション要素を含みながらも、流麗な旋律に叙情性を多分に感じさせてくれるプロジェクト、アヴァンギャルド・ブエノス・アイレス。2008年のキルメス市で行なわれたジャズ・フェスでデヴューしたこのグループには、2012年内に2度の来日を果たすギタリストのキケ・シネシ、パブロ・シーグレルとのトリオを始めバンドネオンの可能性を最大限に引き出すバルテル・カストロと海外でも著名なふたりのプレイヤーを擁し、更にはエステバン・モルガードのカルテットでも活躍し、アルコ弾きから細やかなパッセージも自在なコントラバス奏者でオラシオ・モノ・ウルタード、ディノ・サルーシの息子のホセ・マリアらとのトリオなどでも活動するファクンド・バレイラというカルテット、4人編成。内底まで深遠に顧みるかのような4人のアンサンブルは、アヴァンギャルドという言葉から浮かぶ印象より、むしろ心を鎮めてくれるかのように、物語をゆったりと語るかのように、穏やかな表情さえ携えています。キケ・シネシ作の"Entre suenos" に始まり、組曲形式の"Berlin Tanguismo"、以前に録音している"Hojes de Abril" の新たなヴァージョン、ファクンド・バレイラやモノ・ウルタードの楽曲に、全員で作曲したインプロヴァイズ基調の一曲、そしてアストル・ピアソラ”Revirado"。ミロンガに詩情あふれるサンバに、滑らかなギターのパッセージと、哀愁迸るバンドネオンのロングトーン、ざわざわとナチュラルな音色で感情を刺激するリズム・セクション。またひとつ美しさを誇りにしたインストゥルメンタル音楽の登場。