まったりとした旋律と歌い口、緩やかに身を揺らすソウルネス、メロウで心地よいトーン。70年代ブラジル・サンバ・ソウルの系譜に名を刻むイルドン。隠れた名盤と化していた81年の4thアルバム「Sabor de Amor」が本国ブラジルでアナログLPレコード重量盤としてリイシュー。
1951年バイーア州サルヴァドールの生まれで、14歳の時からバンド活動を開始。カッシアーノらのグループのツアーに帯同したのをきっかけに、ソウル・マスター - チン・マイアと出会いバックを務めるように。その後の1975年多くのカヴァーや映画での楽曲利用を生んだ"na rua, na chuva, na fazenda"をリーディング・トラックにした初ソロ・アルバムを発表。アジムスらとコラボレイトしながら、70年代後半のブラジル音楽シーンを牽引しました。今年のロック・イン・リオ、そしてコアラ・フェスティヴァルにも現役として出演、衰えることを知らぬ活躍を見せています。この4枚目のアルバムは、'81年発表。楽曲制作にも名を連ねるアレシャンドリ・マリェイロス(b)&ママォンことイヴァン・ミゲル(drs)のアジムスのリズム隊とジャズ・ピアノで自身のグループも率いるセルジオ・カルヴァーリョ(hammond,rhodes)に、コーラス・ワークで華を飾るジュッサーラとジュレマのシウヴァ姉妹、そしてイルドン自身の声と生ギターでレコーディングを開始しますが、のちにアントニオ・アドルフォ(p)、アジムスからジョゼ・ホベルト・ベルトラミ(syn)、ルイス・メロヂアやチン・マイアと共演していたヘナート・ピアウ(g)、スティーヴィー・ワンダーの作品で吹いたこともあるマルシオ・モンタホイオス(flugelhorn) らも参加していきます。楽曲の方はパーカッシヴなリズムや合いの手とメロウネスが交錯するA-1"Vadiagem"、最後のバラードというタイトルがまさに洗練された音と合致するA-3"A ultima balada"、フュージョニックなアナログ・シンセとキューバ音楽の影響が混じり合うB-1"Cubana"、黄昏の風景から忘れじのヴァースへ展開するB-2"São Conrado"、そしてサンバ・ソウルの名曲に数えられるダンサブルなB-4"Amor no terra do berimbau"にB-5"Vem dançar o samba"、そして鳥の囀りを伴ったアコースティック弾き語りでS.S.W.としての矜持を見せるB-6"Viveiro de pássaros"まで、シティ・ポップ的な耳にも挿さること必至の名盤。当時コンチネンタルに移籍しての一作目だったらしいのですが、この洗練された音と旧来のプロモーション方法が合致せず、キャリアの中でセールス的にも埋もれてしまったという逸話あり。早すぎたのでしょうか、フレットレスbやメロウなepが躍動するサウンド。